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IT産業調査室

IT/ICT産業の業績や就労環境などを調査し分析しています

IT関連株式公開のB-B企業 直近10年の業績推移をまとめてみた

IT関連企業のうち、法人向け(B-B)サービスに軸足を置いている企業の業績について、直近10年の推移をまとめた。

対象は下記の17業種である。

受託(オフライン)系7業種 ①業務ソフトウェア開発、②組込みソフトウェア開発、③システム運用管理、④複合サービス、⑤コールセンター、⑥セキュリティ監視、⑦通信設備・回線敷設工事。

複合サービスはシステム構築(システム設計、ソフトウェア開発、ネットワーク設計・構築、計算処理サービス、事務サービス、データセンター、コールセンター、システム運用管理など複数の業務を組合わせて提供する事業形態をいう。

ネット(オンライン)系7業種 ①ASP、②BPO・手続き代行、③ネット広告・アフリエイト、④Webニュースサイト、⑤通信販売、⑥求人・求職/マッチングサイト、⑦マーケティング・営業支援サービス。

製品販売系3業種 ①システム販売(ターンキー)、②ソフトウェア・ライセンス販売、③情報機器販売・卸売。

2018年度売上高 1人当たり2,252.3万円

まずは2018年度の業績から

重複になるが、最近の数値すなわち2018年度の業績が起点となる。

売上高は18兆1,429億07百万円だった。営業利益は1兆6,661億71百万円(営業利益率9.2%:2017年度比0.4ポイント増)、経常利益は1兆6,732億59百万円(経常利益率9.2%:2017年度比0.4ポイント増)、純利益は1兆1,081億14百万円(純利益率6.1%:2017年度比0.3ポイント増)だった。

就業者数は80万5,036人だった。内訳は正規雇用が64万0,037人、非正規雇用が16万4,999人だった。

就業者1人当たりで計算する

10年間の推移を見るとき、企業ベースの単純集計では適正さが担保されない。集計の対象企業が入れ替わる(上場廃止、新規上場、業態変容など)し、M&Aで規模が急激に変化することがある。

そこで実質の業績推移は、就業者1人当たりで見ることとする。

就業者1人当たり売上高は2,252.3万円、営業利益は206.9万円、経常利益は207.7万円、純利益は137.6万円だった。

セグメント別に比較すると、受託系(オフライン)170社の就業者1人当たり売上高は1,635.2万円、ネット系(オンライン)は3,771.2万円、販売系は3,656.6万円だった。受託系を1とすると、ネット系は2.3、販売系は2.2となる。

営業利益は受託系134.7万円、ネット系403.0万円(受託系の3.0倍)、販売系348.5万円(受託系の2.6倍)、純利益は受託系96.2万円、ネット系227.5万円(受託系の2.4倍)、販売系246.1万円(受託系の2.6倍)となっている。

では10年前の2009年度はどうだったか

以上の結果を受けて、筆者は「受託系の生産性、収益性の低さが目につく」とコメントした。では10年前はどうだったろうか。

10年前は2009年度ということになる。

前年(2018年)の9月15日に米国の投資会社リーマンブラザーズ・ホールディングスLehman Brothers Holdings Inc.)が経営破綻し、世界同時多発的に株価が暴落する「リーマンショック」が発生した。ウィキペディアによると、「日経平均株価も大暴落を起こし、9月12日(金曜日)の終値は12,214円だったが、10月28日には一時は6,000円台(6,994.90円)まで下落し、1982年(昭和57年)10月以来、26年ぶりの安値を記録した」とある。

また8月15日に1ドル=104.65円だった円・ドル為替が、12月に87.13円にまで高騰した。輸入企業にとっては追い風だったが、輸出企業は大きな打撃を受けた。この景気変動によって企業はIT予算を緊縮した。つまり2019年度はその影響が出た年だった。

2009年度のB-Bサービス企業は374社だった。

売上高は10兆7,116億78百万円(単純比較で前年同期比12.0%減)だった。営業利益は6,239億58百万円(前年同期比13.8%減、営業利益率5.8%:2008年度比0.2ポイント減)、経常利益は6,249億86百万円(前年同期比13.8%減、経常利益率5.8%:2008年度比0.2ポイント減)、純利益は2,643億28百万円(4.1倍、純利益率2.5%:2008年度比2.1ポイント増)だった。売上高、営業利益は2けたの減少となったが、純利益は大幅に増加している。

2009年度を1とすると、企業ベースの2018年度売上高は1.69倍、営業利益は2.67倍、経常利益は2.68倍、純利益は4.19倍に拡大している。1社当たりに換算すると、売上高は1.35倍、営業利益は2.12倍、経常利益は2.13倍、純利益は3.34倍に補正される。

単純集計による売上高の前年増減率を追跡すると、2010年度:0.1%➡︎2011年度:2.0%➡︎2012年度:9.2%➡︎2113年度:5.3%➡︎2014年度:8.6%➡︎2115年度:6.3%➡︎2016年度:5.3%➡︎2017年度:10.7%➡︎2018年度:7.2%と一本調子で右肩上がりとなっている。 

売上高は1.7倍に拡大したが実態は…… 

 

10年間の急拡大は、集計企業数が2009年度:374社➡︎2010年度:382社➡︎2011年度:396社➡︎2012年度:419社➡︎2113年度:436社➡︎2014年度:424社➡︎2115年度:428社➡︎2016年度:433社➡︎2017年度:476社➡︎2018年度:469社と変化(増加)してきたことを差し引いて考える必要がある。

また就業者数は2009年度から2018年度は1.66倍に増加している。具体的な内訳は正規雇用が1.60倍、非正規雇用が1.94倍となっている。

業種・業態セグメント別では、受託(オフライン)の正規雇用が1.56倍、非正規雇用が1.90倍、ネット(オンライン)の正規雇用が1.79倍、非正規雇用が2.02倍、販売系の正規雇用がほぼ横ばい(2.9%増)、非正規雇用が1.25倍という具合だ。受託(オフライン)、ネット(オンライン)の2セグメントで非正規雇用者のウエイトが高まったことが分かる。

2009/2018年度の就業者1人当たりは、売上高がほぼ横ばい(2009年度:2,209.4万円➡︎2018年度:1.9%増の2,252.3万円)、営業利益が1.61倍(128.7万円➡︎106.8万円)、経常利益が1.61倍(128.9万円➡︎207.7万円)、純利益が2.52倍(54.5万円➡︎137.6万円)だ。

セグメント別に見ると、次のようになる。

受託系(オフライン) 売上高は0.5%減(1,721.3万円➡︎1,635.2万円)、営業利益は1.39倍(96.9万円➡︎134.7万円)、経常利益は1.41倍(97.2万円➡︎137.4万円)、純利益は3.20倍(30.1万円➡︎96.2万円)

ネット系(オンライン) 売上高は3.1%減(3,891.7万円➡︎3,771.2万円)、営業利益は1.14倍(352.4万円➡︎403.0万円)、経常利益は1.13倍(343.6万円➡︎386.9万円)、純利益は7.0%減(244.7万円➡︎227.5万円)

製品販売系 売上高は1.11倍(3,298.7万円➡︎3,656.6万円)、営業利益は2.27倍(153.4万円➡︎348.5万円)、経常利益は2.30倍(156.9万円➡︎360.2万円)、純利益は3.72倍(66.2万円➡︎246.1万円)となっている。

このことから10年間の推移を要約すると、受託系とネット系は売上高が微減となったが、受託系は営業利益・純利益を増加させ、ネット系は純利益を減らした。

受託系はマンパワー(人/月)依存体質から抜けきれず、要員増で売上高を嵩上げするほかなく、利益を増やすために比正規雇用と外注の多用で対応したと推測できる。いずれにせよ、売上高は景気低迷の直撃を受けた10年前の水準に戻っていない

ちなみに受託系の平均年齢は2009年度35.5歳➡︎2018年度38.5歳/平均年収は2008年度586.4万円➡︎2018年度612.5万円だった。平均年齢が3.0歳上昇し、平均年収は26.1万円増加している。

一方、ネット系の売上高、純利益の減少は10年間のスパンで見れば「誤差の範疇」といっていい。また、販売系は売上高を1割増やし、営業利益・純利益を大幅に増やした、ということである。

この10年で消えたB-B企業

リーマンショックが発生した2008年に上場市場から姿を消したのは、アスキーソリューションズ(証券番号3801)、ジグノシステムジャパン(4300)、トランスデジタル(9712)、日立システムアンドサービス(3735)、日立ソフトウェアエンジニアリング(9694)などだった。

2009年以後、上場廃止となったのは、ソラン(9750)、富士通BSC(4793)、沖ウィンテック(1767)、キヤノンソフトウェア(9632)、情報技術開発(9638)、日立ソリューションズ・ビジネス(4738)、アジアパシフィックシステム総研(4727)、パナソニックインフォメーションシステムズ(4283)、三井情報(2665)、NECフィールディング(2322)、日信電子サービス(4713)、日本ベリサイン(3722)、インボイス(9448)、アイ・ティ・エックス(2725)、ネットマークス(3713)などだった。

コンピュータ/エレクトロニクスメーカー系(日立、富士通、NEC、OKI(沖電気工業)、キヤノンパナソニックなど)、ユーザー系(三井物産日本信号など)なと、多重取引構造の上位に位置するB-B系ITサービス企業が姿を消したことが、1人当たり売上高が微減した要因の一つと考えられる。