https://developers.facebook.com/docs/plugins/

IT産業調査室

IT/ICT産業の業績や就労環境などを調査し分析しています

ITサービス「受託」の定義が変わる? 非人月モデルが8年連続で営業利益の過半占める

 筆者は2001年度から半期ごとに、株式を上場しているIT関連企業の業績を集計している。その中から受託型ITサービス業を抜き出したところ、2018年度の1社当たり売上高は、人月モデルの486億円に対し、非人月モデルは249億円と半分だが、非人月モデルが企業数で全体の6割、営業利益で51.4%を占め、8年連続で人月モデルを上回った。

社会・経済の構造を変えるのは「B2B2C」モデル

 個別・専用システムの構築・運用を受託する人月モデルはなくならない。下支えとして大きなパワーブロックであることは否定できない。

 にしても——。

 上場企業の数や業績は、現状と今後の方向性を映し出す。ということは、ソフトウェア/システム(業務とビジネスの仕組み)の付加価値を基盤とする非人月モデルが「受託」の主流になっているということだ。

 ただし、長年にわたって指摘されてきた「人月でなく付加価値で勝負」が、ようやく実現した、と見るべきかは意見が分かれるかもしれない。というのは、非人月モデルのIT受託サービス企業の少なからずは、「ITの利用者」にとどまってる可能性があるためだ。つまり「IT受託」の定義を変えるには至っていない、ともいえる。

 この国の産業界に「電子計算機」が普及し始めた1970年代、それまでのPCS時代と決定的に異なったのは、手作業の機械化・効率化から業務改革、業態変化への有力な手段という認識だった。業務改革、業態変化とは、業務プロセスや生産・取引構造の見直し・再構築を意味している。

 業務プロセスや生産・取引構造の見直し・再構築を目指して誕生したはずのソフトウェア産業が、「現状を維持しつつ一部を改善する」ことに甘んじて人月モデルに終始しているのに対し、2000年以後に勃興した「B2B」「B2B2C」の非人月モデルは、ソフトウェアやシステムの付加価値を訴求してきた。

 決して意図したわけではなく、ビネスモデルと業務でセグメントを整理すると、結果として「B2B」は業務プロセスの改革、「B2B2C」には業態改革を指向する企業が集約されることとなった。「B2B」は業務の定義を変え、「B2B2C」は業態(産業)の定義を変える、と言い換えることができる。

 発注者(事業者)との契約形態は「受託」であっても、人月モデルは「巨大な現状維持パワー」、「B2B」は業務改革、「B2B2C」は産業構造の改革につながっていく。

「受託=オンサイト」の視点を変える

 「上場IT関連企業業績調査」はこれまで、受託計算サービス業やソフトウェア受託開発業、システム運用管理サービス業を「受託系」、ネットワーク(インターネット)を利活用して特定の業務を代行する事業者を「ネット系」に整理してきた。ここでいう「受託」は「オンサイト」ないし「面談型」と言い換えていい。

 本来、請負を意味していた「受託」が、いつの間にか要員派遣型の「人月」モデルを意味していることを認めなければならない。プログラムを記述できる要員(頭数)が求められるため、外部から必要な数を調達して発注先に送り込めばいい。ここに同質・同類の企業が連鎖して労働を搾取する多重下請け構造が発生した。多重下請け構造が問題視されて、すでに20年近く(あるいは以上)の時間が流れている。

 しかし事業者(法人)間で委託・受託の関係で役務・業務契約を結ぶという意味で見直すと、これまでの「受託系」企業の多くは「労務提供(人月)」型、「ネット系」企業の多くは「業務・サービス(非人月)」に再整理できるだろう。2001年から開始した「「上場IT関連企業業績調査」にとって今回の再整理は、視点の大転換と言うことができる。

 具体的にいうと、2018年度の上場IT関連企業のうち、受託型ITサービス業は406社だった。内訳は労務提供(人月)モデルが162社、業務・サービス提供(非人月)モデルが244社だった。非人月モデルは業務・サービスの取引関係と最終提供先によって、企業—企業(B2B)110社、企業—企業—消費者(B2B2C)134社となる。

B2B/B2B2Cの業務セグメント属性とは

 確認の意味で、これまで「ネット系」として一括りに整理してきた「B2B」「B2B2C」および、「B2C」のセグメントと業務の属性を説明しておく(表1)。

f:id:itkisyakai:20190905082053p:plain
 「B2B」のセグメントは、「ASP/SaaS」をベースとして、付加的な属性により「データセンター」型、「オペレーション」型の3パターンに分類した。

 「ASP/SaaS」では、まず多種多様な業務アプリケーション(AP)サービスを「APサービス」に集約した。このなかから5社以上を要件として、「ECプラットフォーム」「電子決済」の2業務を独立させた。

 「APサービス」に含まれるのは小売店向けPOSデータ処理サービス、電子データ交換(EDI)、ERP/給与計算パッケージ、在庫管理システム、社会保険業務、法人向けリモートメールなどで、提供企業が5社以上になれば項目として追加することになる。

 「データセンター」型は、よりIT寄りのサービスで、「クラウド基盤」「セキュリティ管理」「データ管理」の3つに整理した。「クラウド基盤」にはサーバーホスティング、サーバー管理が含まれる。

 「オペレーション」型は、ネット経由によるAPサービスと人の関与(労務・役務)が一体化した形態。「営業支援」(アンケート調査、マーケット・リサーチを含む)、「技術サポート」(ITツールのインストール、リモート端末監視、ネット接続サービスなど)、「事務アウトソース」(請求事務、プレスリリースの配信代行、決済代行など)の3つに分類した。

 「B2B2C」は「ポータルサイト」と「コンテンツ」に区分した。

 「ポータルサイト」はネットを介して事業者と消費者を結びつけ、受託契約先の事業者から成功報酬ないし、アクセス数に応じた広告収入を得るビジネスモデルである。ASP/SaaSまでカバーする「複合サイト」、物品やサービス(飲食店や宿泊、イベントの予約など)を販売する「EC(通販)」、仕事をキーにマッチングサービスを提供する「求人・求職」(お見合い、専門事務所紹介も含む)の3つに分類した。現時点で見る限り、B2Bは事業者の業務改革・IT化につながっている。

 また「コンテンツ」は「広告仲介サービス」「情報提供・ニュース」「コンテンツ配信」の3つに整理した。消費者と直結することで、受託契約先の事業者(発注者)のビジネスモデル変革につながっている。

 まだ上場企業は出ていないが、ECサイトが小売業、求人・求職サイトが職業紹介・斡旋業(ハローワークを含む)の定義を変革したように、金融、行政、医療、交通・物流、農業など、消費者ないし個人と結びついているIT受託サービスが、産業の定義を変革していく可能性がある。

 ちなみに事業者と消費者がダイレクトにつながるB2Cのビジネスモデルは、「教育サービス」と「オンラインゲーム」の2業種36社だった。非人月モデルのメインはB2B2Cであることが分かる。

では2018年度の業績を見てみよう

◆406社全体は増収減益

 受託型ITサービス業406社の2018年度業績を、通期決算速報と有価証券報告書をもとに集計すると(表2)、売上高は2017年度比△6.7%の14兆2,669億03百万円、営業利益は△5.7%の1兆3,724億78百万円、経常利益は△3.8%の1兆3,413億75百万円、純利益は▼1.2%の8,337億41百万円だった(△はプラス、▼はマイナス)。

 1社当たりの事業規模は、売上高が△8.8%の351億40百万円、営業利益は△7.7%の33億80百万円、経常利益は△5.9%の33億04百万円、純利益は△0.8%の20億54百万円だった。営業利益率は9.6%、純利益率は5.8%だった。

 406社の総就業者数は△4.8%の69万5,993人だった。内訳は正規雇用者が54万4,089人、非正規雇用者が15万1,904人、非正規率は29.7%だった。1社当たりの就業員数は△6.9%の1,714人、内訳は正規雇用が△7.7%の1,340人、非正規雇用が△4.1%の374人だった。

 就業者数に変動があるため、就業者1人当たりで再算出すると、売上高は△1.8%の2,049.9万円、営業利益は△0.8%の197.2万円、経常利益は▼1.0%の192.7万円、純利益は▼5.7%の119.8万円だった。企業ベースの売上高前年比増減率は△6.7%だが、就業者1人当たりだと△1.8%に圧縮、純利益▼1.2%は▼5.7%に増幅される。原因は就業者を増やしたことにある。

◆非人月モデルに主導権が移動したのは8年前

 本稿のテーマに即して前倒しすると、人月モデルが全体に占める割合は、就業者数の75.0%、売上高の55.1%だが、本業の利益を示す営業利益は48.6%となっている。見方を変えると、非人月モデルは就業者で25.0%に過ぎないが、営業利益の51.4%ということになる。

 非人月モデルが営業利益で人月モデルを逆転したのは今回が初めてではない。さかのぼって集計したところ、2010年度に非人月モデルが営業利益全体の51.7%となって以後、2011年度52.4%、2012年度52.0%、2013年度54.8%、2014年度55.6%、2015年度54.4%、2016年度53.1%、2017年度55.0%だった。

 上場企業に限っての話だが、「受託ITサービス」の主導権は2010年度から、すでに非人月モデルに移っていたわけだった。

f:id:itkisyakai:20190905082112p:plain
 ◆人月モデル162社

 人月モデル162社の就業者数は△3.3%の52万1,871人だった。内訳は正規雇用者が40万2,281人、非正規雇用者が11万9,590人、非正規率は22.9%だった。1社当たりの就業員数は△5.8%の3,221人、内訳は正規雇用が△6.6%の2,483人、非正規雇用が△7.4%の738人だった。

 売上高は2017年度比△4.4%の7兆8,676億84百万円、営業利益は△14.2%の6,676億97百万円、経常利益は△14.9%の6,792億85百万円、純利益は△14.9%の4,456億93百万円だった。営業利益率は8.5%、経常利益率は8.6%、純利益立は5.7%だった。

 1社当たりで見ると、売上高は△6.9%の485億66百万円、営業利益は△17.0%の41億22百万円、経常利益は△17.7%の41億93百万円、純利益は△17.7%の27億51百万円だった。利益が2けた増と順調に業績を回復、改善が進んでいる。

 就業者1人当たりで再算出すると、売上高は△1.1%の1507.6万円、営業利益は△10.6%の127.9万円、経常利益は△11.3%の130.2万円、純利益は△11.3%の85.4万円だった。

 人月モデル162社は受託型ITサービス業406社の就業者数の75.0%、売上高の55.1%を占めているが、営業利益では48.6%となっており、収益性で非人月モデル244社に逆転を許している。

◆非人月モデル244社

 非人月モデル244社の就業者数は△9.9%の17万4,122人だった。内訳は正規雇用者が14万1,808人、非正規雇用者が3万2,314人、非正規率は18.6%だった。

 1社当たりの就業員数は△11.7%の714人だった。内訳は正規雇用が△12.2%の581人、非正規雇用が△9.2%の132人だった。人月モデルの1社当たり就業員数と比較すると、総員数は18.4%、正規雇用は23.3%、非正規雇用は16.9%で、平均的な企業規模は人月モデルの5分の1と考えていい。

 売上高は2017年度比△9.7%の6兆3,992億19百万円、営業利益は▼1.3%の7,047億81百万円、経常利益は▼5.5%の6,620億90百万円、純利益は▼14.9%の3,880億64百万円だった。営業利益率は11.0%、経常利益率は10.3%、純利益率は6.1%だった。営業利益の前年度比がマイナスだったが、営業利益率は2けたを維持している。

 1社当たりで見ると、売上高は△11.5%の262億26百万円、営業利益は△0.3%の28億88百万円、経常利益は▼4.0%の27億13百万円、純利益は▼13.5%の15億90百万円だった。営業利益はぎりぎりプラスだったが、純利益は2けたのマイナスとなっている。

 就業者1人当たりを算出すると、売上高は▼0.2%の3,675.1万円、営業利益は▼10.2%の404.8万円、経常利益は▼14.0%の380.2万円、純利益は▼22.5%の222.9万円だった。減収減益とはいえ、1人当たり売上高は人月モデルの2.4倍、営業利益は3.2倍、純利益は2.6倍と、収益性の高さが目につく。

◆B2B 110社

 「B2B」110社の就業者数は△8.7%の4万7,266人だった。内訳は正規雇用が△10.7%の4万0,730人、非正規雇用が▼2.2%の6,536人、非正規率は13.8%だった。1社当たりの就業者数は△9.7%の430人、内訳は正規雇用が△11.7%の370人、非正規雇用が▼1.3%の59人だった。

 売上高は△8.3%の1兆2,610億97百万円、営業利益は△13.7%の1,053億03百万円、経常利益は△7.8%の995億15百万円、純利益は▼50.4%の264億41百万円だった。「クラウド基盤」のGMOインターネットが当期欠損207億07百万円を計上したのが影響した。

 ちなみにGMOインターネットを除く109社で再集計すると、前年度増減率は売上高が△6.5%、営業利益が△11.4%、経常利益が△7.2%、純利益が△4.1%、営業利益率は7.7%、純利益率は4.4%となる。

 1社当たりで見ると、売上高は△9.3%の114億65百万円、営業利益は△14.7%の9億57百万円、経常利益は△8.8%の9億05百万円、純利益は▼50.0%の2億40百万円だった。

 GMOインターネットを除いた1社当たり業績の前年度同期比は、売上高が△7.5%、営業利益が△12.4%、経常利益が△8.2%、純利益が△5.0%となる。

 就業者1人当たりで再算出すると、売上高は▼0.4%の2,688.1万円、営業利益は△4.6%の222.8万円、経常利益は▼0.8%の210.5万円、純利益は▼54.4%の55.9万円だった。

 GMOインターネットを除いた1人当たり業績は、売上高が▼1.8%の2,571.1万円、営業利益が△2.7%の199.6万円、経常利益が▼1.1%の192.1万円、純利益が▼4.0%の112.7万円だった。

 セグメント別に見ると、1人当たり売上高で「クラウド基盤」の9714.4万円、営業利益で「電子決済」の885.0万円、「通販プラットフォーム」の545.4万円が目につく。

◆B2B2C 134社

 「B2B2C」134社の就業者数は△10.3%の12万6,856人だった。内訳は正規雇用が△10.3%の10万1,078人、非正規雇用が△10.2%の2万5,778人、非正規率は20.3%だった。1社当たりの就業員数は△12.8%の947人、内訳は正規雇用が△12.8%の754人、非正規雇用が△12.6%の192人だった。

 売上高は△10.0%の5兆1,381億22百万円、営業利益は▼3.6%の5,994億78百万円、経常利益は▼7.6%の5,625億75百万円、純利益は▼10.2%の3,616億07百万円だった。営業利益率は11.7%、経常利益率は10.9%、純利益率は7.0%だった。

 1社当たりで見ると、売上高は△12.5%の383億44百万円、営業利益は▼1.4%の44億74百万円、経常利益は▼5.5%の41億98百万円、純利益は▼8.1%の26億99百万円だった。

 就業者1人当たりの業績を算出すると、売上高は▼0.2%の4050.4万円、営業利益は▼12.5%の472.6万円、経常利益は▼16.2%の443.5万円、純利益は▼18.5%の285.1万円だった。就業者が正規、非正規とも2けた増となった分だけ、1人当たり業績が低減した。

 セグメント別に見ると、「EC(通販)」「複合サイト」「広告仲介」の3業務が2期連続で売上高1兆円を突破、1人当たり売上高で「EC(通販)」の5,658.4万円、「広告仲介」の4,585.6万円、「複合サイト」の4,440.6万円、営業利益で「EC(通販)」の743.7万円、「複合サイト」の605.5万円が目立っている。

 業務セグメント別の就業員1人当たり業績は表3の通りだった。

f:id:itkisyakai:20190905082307p:plain