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IT産業調査室

IT/ICT産業の業績や就労環境などを調査し分析しています

デジタル社会・経済に向けたTrusted Dataのための指針

官公庁_調達担当向け

「デジタル社会・経済に向けたTrusted Dataのための指針」

令和4年5月30日

JDEA(日本データ・エントリ協会)

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目 次

第1章 はじめに

第2章 21世紀のデジタル社会を支えるトラストデータ

~20世紀型大量生産方式のデータ作成が失敗した理由~

2-1. データエントリを含む電子化業務に係る過去インシデント一覧

図2-1. 昨今のインシデント一覧

2-2. インシデント発生の原因分析

図2-2. インシデント発生の原因

2-3. インシデント発生の原因カテゴリ

図2-3. インシデント発生原因のカテゴリ分け

2-4. インシデント発生原因のまとめ

図2-4. インシデント発生の原因のまとめ

第3章 トラストデータの作り方

3-1. インシデントが多発する現状の調達フロー

図3-1. 現在の調達フローの例(役務提供・一般競争入札の場合)

3-2. 現状のフローに対するインシンデント原因・リスクの存在

図3-2. インシンデント原因・リスクが発生する箇所

3-3. インシデント未然防止のためのあるべきフロー

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第1章 はじめに

本指針は、日本デタ・エントリ協会創立50周年を機に、「健全なデータドリブン社会に向けたデータトラストの確保」をテーマに、本小委員会が議論した内容をまとめたものである。

 バブル崩壊後の「失われた30年」から抜け出し、同時にゲームチェンジの勝者となる切り札として、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)が挙げられる。2019年に経済産業省(以下、経産省)から『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~[1]』(以下、DXレポート)が発表され、2025年までにDXへの取り組みの重要性について言及している。老朽化や複雑化、ブラックボックス化している既存の基幹システム等を変革し、21世紀型の新しい価値創出につながっていくことを期待する。                                                                                                        

 我々、日本データ・エントリ協会[2](Japan Data Entry Association、以下JDEA)は、この一翼を担うべく、DXに貢献しうる精度、すなわちデータトラストを確立し、普及させることをミッションの一つとしている。レガシー企業文化から脱却したデジタル企業にとって、革新システムと対になるデータトラストは、正にDXを推進する基盤として必要だ、と考えるためである。

 データエントリ業界では精度・スピードを重視したベリファイ方式や、PC等を用いたダブルエントリーマッチング方式等の入力様式が確立されて久しい。近年は男性の参画も見受けられるが、伝統的に女性が作業に従事することが多く、ジェンダフリーにもマッチした職種と考えられる。

 データ精度99.97%以上を保つのはエントリ従事者の日々の訓練によるところが大きい。一部ではRPA、AI-OCR等がエントリ従事者に取って代わると言われるが、技術革新が進んだ現在もこの精度には及ばず、補助的な役割にとどまっている。

 我々JDEAはこうした現状の中で、(データトラストの標準となる)データエンジニアリングに基づき、データドリブン(データ利活用)社会の構築を深化させることに貢献する。本指針はその第一ステップとして、専門家の視点から、データエントリ業務の発注プロセスにおける課題を指摘し、用途・目的に応じたデータ定義と要件、データ作成作業仕様のあり方を見える化した。 

 本編第2章にまとめた各種インシデントの原因を分析すると、こうした必須事項を省くことで起こっている。その背景には、従来通りを「正」とする前例主義があり、また生産性とコストを配慮せず、安全性を軽視したことも明かな一因となっている。安全性はヒト、モノ、カネで積極的に確保すべきものであり、オートマティックに生産性へ付随するものではない。データトラストとは、正確性と安全性を兼ね揃えた究極のデータであり、DXの先にある世界中のあらゆる企業と戦う武器となるものである。

 本指針では正確性を担保しつつ、こうした生産性と安全性の問題に対しバランスする指針となるよう提言をしたい。

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第2章 21世紀のデジタル社会を支えるトラストデータ

~20世紀型大量生産方式のデータ作成が失敗した理由~

 

データエントリを含む電子化業務に係る役務提供の政府調達において、データ入力の低精度や無許可再委託による情報漏えい等のインシデントが過去多く発生している。単純業務との誤認識により、リスク対策を軽視していることが大きな原因の一つと考える。こうした事態に対処するため、電子化業務の重要性を改めて確認し、正しい業務フローの理解が重要であることを示す。そのため本章では、過去のインシデントの事例から調達側に潜むリスクとその原因について探る。

 

2−1 データエントリを含む電子化業務に係る過去インシデント一覧

データドリブン社会の根幹である電子化業務の調達において、昨今様々なインシデントが発生しており、以下代表的な事例の一部を抜粋する。[3]

 

図2-1 昨今のインシデント一覧

No

発生時期

発生機関

落札企業

業務内容

インシデント概要

顛末

No.1

2007年

(旧)社会保険庁

複数社

データエントリ・名寄せ業務

台帳不備、職員不祥事等

社会保険庁解体

No.2

2018年

国税庁

東京国税

大阪国税

S株式会社

データエントリ業務

請負業者によるマイナンバーを含む情報流出

(参考:再委託割合)     1,712,580/1,857,582件

国税庁がS株式会社との業務委託契約の解除。以降、S株式会社の入札参加資格の停止

No.3

2018年

日本年金機構

株式会社S

データエントリ業務

扶養親族等申告書1,300万件中501万件を無断で中国へ再委託。結果、大量の入力ミスが発生し納期も大幅に遅延

株式会社Sが事実上倒産

No.4

2019年

本庄市

東松山市

羽生市

深谷市

和光市

幸手市

A株式会社

データエントリ・封書封緘業務

無断での再委託、再々委託を行っていた事実が判明

対策本部を立ち上げ、個人情報保護管理者を委員長とした調査委員会を立ち上げた結果、管理体制の強化、教育等により再発防止にコスト・時間を多く浪費

No.5

2018年

日本年金機構

株式会社K

データエントリ業務

算定基礎届など3種類(53万6千件)を無断で再委託

日本年金機構は違反を把握した翌日には業務委託停止処分とし、

再入札となった。次年度調達より、全省庁統一規格Aランク限定且つ大半の帳票が機構内で処理するオンサイト業務に変更

No.6

2021年

国会図書館

T株式会社

M株式会社、他

電子化業務

戦前~戦後まで含め古い書籍が多く、原本の劣化により作業が著しく困難を極め、目次入力においても旧字が多く電子化の価値が棄損 

具体的な対策は取れておらず、入札時の業者提案に依存している業況

 

2−2 インシデント発生の原因分析

前項2-1でまとめた昨今のインシデントの一覧について、その発生原因を分析する。インシデント発生に関しては様々な要因があると想定するが、その原因の種類を特定し、セグメントを用いて理解することにより進める。

図2−1でまとめたものに対して、後列に原因を記載する。

図2−2  インシデント発生の原因(図2−1とNo対応)

No

発生時期

発生機関

落札企業

インシデント概要

原因

No.1

2007年

(旧)社会保険庁

複数社

台帳不備、職員不祥事等

基礎年金番号ができる以前の管理や杜撰な原票管理、保管、地域ごとで項目等が異なる現状など、発注元が状況を理解出来ておらず、標準化するための変換の仕組みがなかったことが原因。

OBの会社に仕事を流していたり、年金に関わる役人の無責任な対応、年金支給を行う未来を考えず杜撰な管理、横領などが多発していた等

No.2

2018年

国税庁

東京国税

大阪国税

S株式会社

請負業者によるマイナンバーを含む情報流出

(参考:再委託割合)     1,712,580/1,857,582件

データエントリ作業自体を再々再委託となり、その理由として作業工程に対しての圧倒的な低価格落札が原因。

また、落札企業がキャパオーバーであるにも関わらず調査無しで落札

No.3

2018年

日本年金機構

株式会社S

扶養親族等申告書1,300万件中501万件を無断で中国へ再委託。結果、大量の入力ミスが発生し納期も大幅に遅延

発注先がクオリティ維持のための作業工数を理解せずに入札予算を組み、厳しい条件での契約書で縛り、落札後は特に調査等をしなかった。作業工数に対し落札企業の処理能力が脆弱であったことから中国へ不法に再委託。作業工数に対する単価が国内の最低賃金を下回っており国内で処理できないほどの落札であるにも関わらず調査しない入札であったことが原因

No.4

2019年

本庄市

東松山市

羽生市

深谷市

和光市

幸手市

A株式会社

無断での再委託、再々委託を行っていた事実が判明

元々、不法に中国に再委託することを前提としていた体制及び、その結果の低価格落札に気づけなかったことが原因

No.5

2018年

日本年金機構

株式会社K

算定基礎届など3種類(53万6千件)を無断で再委託

落札企業がキャパオーバーな現状であるにも関わらず、落札した。処理スキーム等に関して提案型の総合入札案件であったが、発注者元で業務履行の実現性を見極められなかったことが原因

No.6

2021年

国会図書館

T株式会社

M株式会社、他

戦前~戦後まで含め古い書籍が多く、原本の劣化により作業が著しく困難を極め、目次入力においても旧字が多く電子化の価値が棄損 

網羅的に書籍を電子化することのイレギュラーを把握している発注元の担当者が存在しておらず、作業難易度を理解しないまま入札となったことが原因

 

2−3 インシデント発生の原因カテゴリ

図2−2では図2−1で示したインシデントの直接的な原因を記載した。以下、図2−3では、その原因を大まかな種類に分けてカテゴリ分析を進める。

図2−2でまとめたものに対して、後列に原因種別カテゴリーを記載する。

図2−3  インシデント発生原因のカテゴリ分け

No

発生時期

発生機関

インシデント概要

原因

原因種別カテゴリ

No.1

2007年

(旧)社会保険庁

台帳不備、職員不祥事等

基礎年金番号ができる以前の管理や杜撰な原票管理、保管、地域ごとで項目等が異なる現状など、発注元が状況を理解出来ておらず、標準化するための変換の仕組みがなかったことが原因。

OBの会社に仕事を流しているなど年金に関わる役人の無責任な対応、年金支給を行う未来を考えず杜撰な管理、横領などが多発していた等

1-1.発注元の現状把握不足

1-2.発注元の専門性不足

No.2

2018年

国税庁

東京国税

大阪国税

請負業者によるマイナンバーを含む情報流出

(参考:再委託割合)     1,712,580/1,857,582件

データエントリ作業自体を再々再委託となり、その理由として作業工程に対しての圧倒的な低価格落札が原因。

また、落札企業がキャパオーバーであるにも関わらず調査無しで落札

2-1.発注元による落札企業の実行性調査不足

2-2.発注後の管理不足

2-3.低価格落札

2-4.原価計算の誤り

No.3

2018年

日本年金機構

扶養親族等申告書1,300万件中501万件を無断で中国へ再委託。結果、大量の入力ミスが発生し納期も大幅に遅延

発注先がクオリティ維持のための作業工数を理解せずに入札予算を組み、厳しい条件での契約書で縛り、落札後は特に調査等をしなかった。作業工数に対し落札企業の処理能力が脆弱であったことから中国へ不法に再委託。作業工数に対する単価が国内の最低賃金を下回っており国内で処理できないほどの落札であるにも関わらず調査しない入札であったことが原因

3-1.発注元の作業工程の理解不足

3-2.発注後の管理不足

No.4

2019年

本庄市

東松山市

羽生市

深谷市

和光市

幸手市

無断での再委託、再々委託を行っていた事実が判明

元々、不法に中国に再委託することを前提としていた体制及び、その結果の低価格落札に気づけなかったことが原因

4-1.発注元の作業工程の理解不足

4-2.発注後の管理不足

4-3.低価格落札

No.5

2018年

日本年金機構

算定基礎届など3種類(53万6千件)を無断で再委託

落札企業がキャパオーバーな現状であるにも関わらず、落札した。処理スキーム等に関して提案型の総合入札案件であったが、発注者元で業務履行の実現性を見極められなかったことが原因

5-1.発注後の管理不足

5-2.発注元による落札企業の実行性調査不足

 

No.6

2021年

国会図書館

戦前~戦後まで含め古い書籍が多く、原本の劣化により作業が著しく困難を極め、目次入力においても旧字が多く電子化の価値が棄損 

網羅的に書籍を電子化することのイレギュラーを把握している発注元の担当者が存在しておらず、作業難易度を理解しないまま入札となったことが原因

6-1.発注元の現状把握不足

6-2.発注元の専門性不足

6-3発注元の作業工程の理解不足

 

2−4  インシデント発生原因のまとめ

次に、2−3でまとめたインシデント発生の原因をさらに大元で同意義なものを群として以下、A群~D群の4つにまとめる。

 

図2−4  インシデント発生の原因のまとめ

原因No.

カテゴライズ名称

図2-3より「原因種別カテゴリ」

原因サマリー

 原因A群

発注元による全体像など現状把握

1-1.発注元の現状把握不足

発注元が、全体的に何の為にやるかを理解していないことが原因

6-1.発注元の現状把握不足

 原因B群

発注元による発注先への調査不足

2-1.発注元による落札企業の実行性調査不足

発注先企業が、本当に実行出来るのか、という調査が不足していることが原因

5-2.発注元による落札企業の実行性調査不足

 原因C

発注元による作業工程や原価等の理解不足

1-2.発注元の専門性不足

発注元の担当者の専門性が低いことで、発注先で作業する工程フローを理解していないことが原因。

結果、低価格落札を招くことに繋がっている。

2-3.低価格落札

2-4.原価計算の誤り

3-1.発注元の作業工程の理解不足

4-1.発注元の作業工程の理解不足

4-3.低価格落札

6-2.発注元の専門性不足

6-3発注元の作業工程の理解不足

 原因D

発注元による発注先に対する発注後の管理不足

2-2.発注後の管理不足

発注後に、発注先への業務管理が不足していることが原因

3-2.発注後の管理不足

4-2.発注後の管理不足

5-1.発注後の管理不足

 以上の通り、過去のインシデントにおいては様々な原因から発生した事故であり、それは発注元に起因していることが多く見受けられることがわかる。つまりこれは発注元の体制次第では未然に防ぐことが可能となることであり、以下第3章以降では未然防止について詳しく説明する。

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第3章 トラストデータの作り方

 

3−1  インシデントが多発する現状の調達フロー

 第2章では、過去に起こったインシデントの原因をまとめた。本章では、その原因が現在の調達フローにおいてどの部分に起因するのかを確認する。まずは、現在の調達がどのようなフローで行われているのかを確認する。

図3−1  現在の調達フローの例(役務提供・一般競争入札の場合)

No.

カテゴリ

官公庁・自治

業者

補足説明

01

事前調査

  調達内容調査

    ⬇️

 

各原価から必要な調達が起案

02

予算・仕様

  予算策定の為の費用算出 ➡️

    ⬇️

下見積

 

業者から下見積を取り概算としての費用を算出

03

予算・仕様

  仕様書作成に係る調査  ➡️

    ⬇️

確認

 

専門性がある部分のみ業者へ確認し仕様を作成

04

予算・仕様

  仕様書作成

    ⬇️

 

05

予算・仕様

  予算化・開示

    ⬇️

 

主にWEB
上で調達情報を開示

06

入札

  入札対応        ➡️

    ⬇️

質疑

 

応札希望企業への対応

07

入札

  入札説明会

    ⬇️

 

必要に応じて説明会を実施

08

入札

  開札/開示       ➡️

    ⬇️

応札

 

必要に応じて落札企業を主にWEB上で開示

09

契約

 

 

基本機関で保有しているフォーマットで締結

10

発注

  発  注

    ⬇️

 

作業期間中、基本は確認作業等しない

11

納品

  納入受取/検収   ⬅️

    ⬇️

納品

 

契約に従い納入物を検収

12

支払

  支払い

 

契約に従い払い込み

 

 現在の調達フローの例(役務提供・一般競争入札の場合)としては、基本的には上図の通り必要最低限の工程しか踏まない場合が多い。過去発生したインシデントが各工程にリスクとして潜伏している可能性あることを次項で指摘する。

 

3−2 現状のフローに対するインシンデント原因・リスクの存在

 前項では、現状の入札フローを記載したが、どの工程に対して、過去インシンデントとなった原因やリスクが存在するのかを明確化する。第2章でまとめたインシンデント原因A群~D群の4つを「図3−1」にプロットすることで、可視化する。

図3−2  インシンデント原因・リスクが発生する箇所

No.

原因箇所

カテゴリ

官公庁・自治

業者

01

  原因A群

事前調査

  調達内容調査

    ⬇️

 

02

  原因B群

  原因C

予算・仕様

  予算策定の為の費用算出 ➡️

    ⬇️

下見積

 

03

  原因B群

  原因C

予算・仕様

  仕様書作成に係る調査  ➡️

    ⬇️

確認

 

04

  原因B群

  原因C

予算・仕様

  仕様書作成

    ⬇️

 

 

05

 

予算・仕様

  予算化・開示

    ⬇️

 

06

 

入札

  入札対応        ➡️

    ⬇️

 質疑

 

07

 

入札

  入札説明会

    ⬇️

 

08

 

入札

  開札/開示       ➡️

    ⬇️

応札

 

09

 

契約

  契約締結

    ⬇️

 

10

  原因D

発注

  発  注

    ⬇️

 

11

  原因D

納品

  納入受入/検収  ⬅️

    ⬇️

納品

 

12

 

支払

  支払い

 

 

原因A群は、No.01「調達内容調査」の工程で、原因B群及びC群はNo.02「予算策定の為の費用算出」、No.03「仕様書作成に係る調査」、No.04「仕様書作成」、原因D群はNo.10「発注」、No.11「納入受取/検収」の工程で発生する原因・リスクが存在する。

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3−3  インシデント未然防止のためのあるべきフロー

前項ではインシデントの原因リスクとなる箇所を特定したが、どのようにこれらを事前に防止していくかを本項目では提案する。以下は本来、あるべき姿、あるべき調達フローとして習慣化されるべきだと考える。

図3−3 未然防止のためのあるべき調達フロー

No.

官公庁・自治体・(業者)

補足説明

01

  調達内容調査

 

新設

01-1

  担当者が全体像の

  目的・効果を徹底

プロジェクト自体の目的とその効果を担当者が完全に理解をし、納入後の運用を含むあるべき姿を明確化させる

新設

01-2

  全例調査の徹底

過去、同機関又は別機関にて類似調達があったかを徹底的に確認する

新設

02-1

  作業内容の徹底理解

  専門家ヒヤリング

どのような作業内容が必要か徹底理解をする。単純な作業である場合でも専門家や業界団体へヒヤリングを実施

順変更

02-2

  予算策定の為の予算算出 ➡️ 下見
 

予算策定の為の費用算出については専門家ヒヤリング・内容の深い理解が終わってから実行。下見積もり方法も変更。

03

留意点

  仕様書作成に係る調査 ➡️ 確認

 

DXに係る電子化業務において仕様書作成に必要なことは、通常の仕様に加え、必要な精度の決定、そのために必要な作業フロー、わかる範囲での正式な数量、繁閑が明確なスケジュール、納期、等となる

04

留意点

  仕様書作成

05

  予算化/開示

 

 

新設

05-1

  前年同様の際、千年同様の予算かを

毎年、環境や最低賃金など条件が変更していくことは当然であり前年と同様の予算しか取れないことを改めていく必要がある

06

  入札対応 ➡️ 質疑

 

 

07

留意点

  入札説明会 

説明会は、必要に応じてオンラインでの実施を奨励する

08

  開札/開示 ⬅️ 応札

 

 

09

留意点

  契約締結

従来の強者・弱者に分かれている契約内容にすることは無く、民間同士の契約と同等に、フェアな内容にする

10

  発  注

 

新設

11

  施工管理の徹底/イレギュラー対応

落札業者が仕様通りの業務フローを実行しているかを確認。また予定外の数量等になった場合のイレギュラー対応を重視

12

  納入受取/検収 ⬅️ 納品

 

 

13

  支払い

 

 

【留意点】

インシデントを未然に防ぐためには、通常のフローに加え、新設されたフローを追加することでリスクを極限まで下げることが出来ると考える。また、各フローにおける留意点を以下にまとめる。

 

 新設された01−1「担当者が全体像の目的・効果を徹底理解」は、起案者と決裁者、予算承認者、入札担当者等、担当が縦割りで分担されており、調達案件そのものの意義や目的を理解しないまま進められることが多い。

 作業中の業者からの重要な質疑などその後に強く影響してしまう誤った回答をしてしまうなどインシンデントに繋がるケースが存在する。全体像を理解し、役割事の担当へ明確な指示を出すことが出来る調達責任者が居ることで未然防止に繋がる。

 

 01−2「前例調査の徹底」では、現在もWEB上で簡単に検索する担当者も存在するが、実際に過去の調達情報は都度更新削除され続けているため、遡って検索することが不可能な実態も存在する。

 そのような状況において、民間企業運営の「調達インフォ[4]を奨励する。本サービスは、2008年より過去に遡って見ることの出来ない調達情報(入札情報・落札者情報・応札者情報等)を人力で収集しており、類似調達案件を簡単に検索出来るサービスとなっている。このようなサービスを活用し前例を徹底調査することでインシデントを未然に防止することが重要となる。

 

 02−1「作業内容の徹底理解/専門家ヒヤリング」は作業の内容をざっくりではなく、詳細に把握することが重要である。特にデータエントリのような業務は単純作業だと感じやすく、インシデントに直結するケースも多い。担当者は業務を深く理解する必要があり、専門家のヒヤリングを徹底することが重要となる。その際、専門家にヒヤリングする内容として、データエントリの場合において以下例を記載する。

例)

・目標品質(精度)に達するためのSLAのドラフト情報

SLAを達成することを前提としてあるべき作業フロー

・ざっくりとした作業仕様

・気を付けるべき点

(再発注可能か、OCR可能か、オフショア可能か、在宅可能かが可能とするべきかどうかなど)

・ロット件数

・納期

・対応企業規模

・調達方法(発注件数や分け方)などで企業が参加しやすい方法は何か?など

なお、ここで一番重要なことは起案者(担当者)が専門家から聞いた内容をしっかりと自分自身理解することであり、これを怠るとインシデント発生リスクが高まることに留意する必要がある。

 次に02−2「予算策定の為の費用算出/下見積」について、ここは従来のフローから専門家ヒヤリング終了後にフロー順を変更することを奨励する。

 担当者が内容を理解した上で、下見積を依頼する企業に詳細説明をした上で見積もりを取ることが重要であり、下見積を依頼する企業についても上記「調達インフォ」等のサービスをうまく活用することで複数社からの見積もりを取得することが可能となる。

 この際に重要なこととして下見積ごとの「金額算出ロジック」をしっかり理解することが重要であり、無形サービスを有形化させ、業務フローと人月単価を詳細に理解する。そしてオーダー時に伝えた業務内容と合致しているかを確認する。

 なお、昨今のインシデントにおいては、見積もりに参加した企業が応札時に低価格で札入れをしてくる傾向が目立つ。物品とは違い、電子化業務は同じサービスを提供された納品物なのかが分かりづらい傾向にある。

 つまり、役務の提供におけるサービス内容は業務フローそのものを指すことになる。作業内容の徹底理解=サービス内容・商品内容の理解、となり、複数社に下見積を取る際に全社が同様のサービス(フロー)で見積もりを行っているかを見極めることが重要となる。

 なお、その際、フローからの人月計算が大まかに出来てさえいれば、最低賃金を下回る単価で作業を行っているかどうか、という重要な点も理解できることとなる。

 

 03及び04「仕様書作成」に関しては、上記の工程で本業務の全体的な目的から必要な精度を算出し、その為に必要な作業フローを構築している。仮

 に必要な精度が99.98%であれば、データエントリの場合、2回(エントリ・ベリファイ)入力が基本となる。0.02%のミス率がクリティカルとなる場合、4回入力とし精度を99.9998%のフローとすることとなる。

 仕様書作成は精度の記載だけではなく、4回入力で確認作業はどのようにするのか、という具体的な記載をすることがポイントとなる。そうなると当然、業者間の大きな金額のばらつきがなくなることとなる。

 また、時期や繁閑スケジュール、入稿・納品のタイミング、というような作業フローを明確化することで今まで記載されていなかった詳細が仕様書に記載出来ることとなり、インシデントリスクを大きく減少させることが可能となる。

 

 05−1「前年同様の際、前年同様の予算かを確認」では、現在、習慣となってしまっている前年度と同様の予算しか取れないことについて指摘する。当然ながら毎年、法改正等の環境変化が起こっている中で、業者の単価が変動することを考慮に入れる必要がある。

 特に電子化業務においては、人件費が多くの原価を占める作業であり、最低賃金の変更など毎年同じ金額で受注することが困難となる。そのため、業務フローの簡素化に踏み込み、インシデントが発生するという傾向にあることを理解するべきである。

 また、例えば前年落札した業者が精度関係無しの低価格落札となってしまった場合においても、翌年同様の予算となっている傾向があり、総じて納品物への悪影響につながっていることを理解する必要がある。

 

 09「契約締結」においての注意点は、契約内容にある。従来の一般的な契約内容は、作業内容に大きく影響を及ぼす箇所でさえも、不明な箇所を明確にせず、そのリスクは業者が負うという内容が多い。

 例えば、電子化業務において、原票の状態が不明で受注した業者に対し、想定外の原票状況であった場合においても、契約書に明記されていないので追加費用は無しということになってしまう。当然ながら、民間同士の契約の場合、記載がなく、予め想定していない事象が発生した場合は、両社協議して交渉できる契約となっている。

 公共における契約においても同様の考え方を導入しない限り、質の高い落札者が減少していくことになる。特に、データエントリやスキャニングにおける業務の場合、予定していた件数が大幅に減少することも多く発生しており、業者は予定件数に合わせ人員配置をしていたのにも関わらず保障等は一切無い。落札業者はそのような負担に耐えられず業務フローを簡素化してしまい、インシデントに繋がるケースが多く見られる。

 

 11「施工管理の徹底/イレギュラー対応」について、現在は契約締結後、作業に入った業者に対して特段気にせずに納品データを受け取るだけの状態となっている。

 重要なことは、仕様通りの業務フローとなっているかを作業前、作業中に確認をすることであり、納品という結果を作り出す過程をしっかりと確認することでインシデントを防ぐ。また、作業中のインシデントについて、特に予定していた件数の上下に対しては納期調整を行うなど、業者が常に決められた業務フローで作業が出来るように配慮することが重要となる。

 

[1] 経済産業省デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会より平成30年9月7日に発表された「デジタルトランスフォーメーションDXレポート」

[2] 日本データ・エントリ協会「https://www.jdea.gr.jp/」日本データ・エントリ協会は1971年10月、「日本パンチセンター協会」(JPCA)が設立され、1974年2月、現在の日本データ・エントリ協会(Japan Data Entry Association)に発展的に改組。

[3] リストに記載の情報はすべて日本データ・エントリ協会の独自調査による。

[4] 「調達インフォ」:株式会社うるる(証券番号3979)が運営(https://bid-info.jp/) 

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 ここまでの時点で、インシデントの発生についての原因、それに対する対応の理解を深めることが出来た。

 改めて我々JDEAが伝えたいことは、

        データエントリ業務を含む電子化業務は決して単純作業ではない

        トラストデータ作成には、フローに沿った環境を整える必要がある

         DXを担う革新システムと対になるトラストデータは今後増々重要となる

 JDEA50周年を機に、諸先輩方が築き上げてきたデータエントリの歴史を振り返り、健全な業界を育て、守っていくため今後も提言を続けたい。