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IT産業調査室

IT/ICT産業の業績や就労環境などを調査し分析しています

グラフは語る(4-9) 情報処理系SIとソフトウェア受託開発 連結依存度

 情報処理系SI業は従業員数の増加が売上高の増加と同期し、1人あたり売上高はなかなか上昇していません。これに対してソフトウェア受託開発業は従業員数、売上高が減少しても1人あたり売上高は続伸しています。この違いは何に由来するのか、集計データをもとに考察してみました。

 集計データ上、両者の目立った相違は単独・個別/連結比率でした(従業員数や業績規模の大小は無視します)。単独・連結の1人あたり売上高を「1」として、単独・個別の1人あたり売上高を比較すると、情報処理系SI業はおおむね2.0〜2.4倍、ソフトウェア受託開発業は1.1〜1.2倍でした。

※連結決算の場合、連結売上高を連結従業員数で割った連結1人あたり売上高は、個別売上高を個別従業員数で割った個別1人あたり売上高より低いケースが多数を占めています。従業員目線で見ると、連結子会社は親会社の業績に貢献(売上高、営業利益を上納)していることになります。

▶️一線を画す売上高1000億円超

 情報処理系SI業29社の2023年連結依存度は2.342ですが、上位10社(売上高1,000億円超:暫定Aグループ)に限ると2.702に上昇します。残り19社(18社は売上高1,000億円未満:暫定Bグループ)の連結依存度は1.122なので、その差は2.1倍に広がります。暫定Bグループの連結依存度は、ソフトウェア受託開発155社の平均値と変わりません。

 また、、トップのNTTデータ(連結依存度15.534)を除く上位9社の連結依存度は1.736で全体29社の平均に近づきますが、暫定Bグループ18社およびソフトウェア受託開発155社とは一線を画していることが分かります。

 従業員数ではどうでしょうか。連結・個別の従業員数を単独・個別の従業員数で割った連結依存度指数を計算してみました。

 情報処理系SI業29社の平均は4.442、Aグループは5.278(NTTデータ:15.534を除くと2.461)、Bグループは1.539でした。ソフトウェア受託開発155社は1.671で、SI業Bグループはそのなかに吸収されます。つまりSI業Aグループは、受託系ソフト/サービス業のなかで特殊な性格を帯びていることが分かります。

▶️専門子会社間の多重下請け構造

 情報処理系SI業Aグループは取扱い業務が多種多様で地域的な広がりが大きいため、業務・地域ごとに専門会社(子会社)を設立しています。SI業Bグループとソフトウェア受託開発業でも特定業務を担う専門子会社を設立していますが、情報処理系SI業Aグループほど複雑ではありません。

 これが何を意味しているかというと、情報処理系SI業Aグループにあっては利益をグループ内に留めるため、子会社間で取引きが行われるようになっている、ということです。多重取引(多重下請け)構造が責任の所在を曖昧にし、システム品質の劣化や情報漏洩の温床となっていることはよく知られているところです。グループ内での多重取引が常態化し、各子会社がそれぞれに利益を先取りするため、発注価額を引き下げることになります。

 ソフトウェア受託開発業の場合、親会社と同類・同質の子会社を設立する意味がありません。本業のソフト開発に付随して派生する登録型要員派遣、システム運用管理、事務処理代行、電子機器・ソフトウェア販売etcであって、部内取引きは自ずから発生するでしょうが多重構造になりにくい特性があります。

 とはいえ情報処理系SIもソフトウェア受託開発も、売上高の3〜4割を外部発注(外注)に依存している点では同じです。同質・同業の連鎖が平均4次から5次下請けに及んでいることが、ソフト/サービス業従事者の給与や待遇を好転させる最大の阻害要因になっている事実は変わりません。

▶️営業利益率が逆転する?

 情報処理系SI業Aグループは「利益率は低くても、規模を拡大すれば利益も大きくなる」という規模の理論で突き進んできました。いわゆる「3000億円クラブ」(売上高3000億円が競争優位のボーダーライン)の考え方です。

 事実、情報処理系SI業の営業利益率は、他のカテゴリーの企業群と比較して優位かどうかは別として、ソフトウェア受託開発業に対しては、2013年から一貫して優位にありました。しかし黒線で囲んだ部分:2023年実績から2024年上半期で、ソフトウェア受託開発業が情報処理系SI業を逆転しています。

 ソフトウェア受託開発業の1人あたり売上高が減少傾向にあるのが気になるところですが、開発手法の転換や品質管理ツールの適用、AI適用型アプリケーション開発など新規軸の導入が、ソフトウェア開発業に変革をもたらすか、さらに「規模の理論」に突破口を開くのか、注目したいと思います。