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IT産業調査室

IT/ICT産業の業績や就労環境などを調査し分析しています

3月期/ポータルサービス64社 5年ぶり2けた増の背景に巣ごもり需要と非接触指向(3)

アナログからデジタルに転換した強み

 就業者1人当り売上高について、2012年3月期を起点(0)とする増減率のグラフを作ると、図の赤い折れ線のようになった。統計上、集計対象企業数が59社、全売上高が2022年3月期の4割強だった2兆3279億81百万円の2007年から、1人当り売上高は3000万円を下回ったことがない。

 それではあまり面白くないので、営業利益の増減を緑色の折れ線で書き加えた。2010年まではゲームソフトメーカーの大型M&Aとシュリンプラップ・パッケージの店頭販売からオンラインサービスへの転換、紙印刷のコミックや小説の電子化が進んだ時期であって、再編と離陸が重なっている。別の言い方をすると、アナログベースのビジネスがデジタルに転換した時期ということができる。

 デジタル転換期の営業利益は急落し、2009年に対2012年比▼40.2%まで落ちた。しかし2年間で急速に回復、2012年から2018年までは対2020年比△10%前後で推移した。基準線を一段下げると、売上高3000万円、営業利益営業利益500万円がポータルサービスの標準であるように見えてくる。

 2020年は売上高、営業利益とも減少しているが、これは新型コロナ対策に伴う需要の変化と見ていい。アミューズメント、電子メディアが落ち込んだのは、外出自粛・テレワークなどで通勤時間帯にスマホでゲームを楽しんだりコミックや小説、ニュースを読むことがなくなったためかもしれない。

 しかしビジネスのベースがデジタルに転換しているため、消費者ニーズの変化を迅速にキャッチアップすることができた。それが2021年、2011年の2年間で急回復している要因と言っていい。デジタル化した強みが発揮されている。 

就業者や取引先にどう利益を還元するか

 法人を対象とするWebサービスと、消費者(個人)のニーズに向き合うポータルサービスの2つのドメインが、現時点における「デジタルビジネス」ということができる。両ドメインとも就業者1人当り売上高が2000万円/3000万円超、営業利益率が15~20%となっており、高い経済生産性を示している。

 株主資本主義ないし資本再生産的な視点にあっては、高収益=高配当こそが是なのだが、デジタル化/DXをただちに高収益ビジネスの実現につなげてしまうのは短絡であり過ぎる。利益の最適配分の視点が欠落していると言わざるを得ない。

 物品販売(ネット通販)が最も分かりやすいのだが、インターネットによるデジタル取引きの最大のメリットは、「仲抜き」にある。ポータル経由で受け付けた注文を、ダイレクトに生産者(メーカー、商店、農家、個人)に転送し、代金をクレジットや電子マネー、ポイントなどで決済する。

 そうすることでこれまで倉庫業や仲卸業が営んでいた物流の仲介業務がなくなり、代金決済に要していた金融手数料が消滅する。ポータルサービスの利益は、つまり仲介者の業務経費を契約に基づいてデジタル技術で吸い上げた結果、ということになる。

 それが悪いというのではない。それによってアナログベースのビジネスが淘汰され、デジタルビジネスがオーバーライトしていくわけだ。しかし高い利益率を誇ることが、いつまで社会的に支持されるか、現場の賃金で競争優位に立つことができるか、という課題が残る。

 例えばポータルサービスの企業群が、適正利益の余剰分を就業者に還元するなら、平均年収:37.3歳=597万~671万円(2022年3月現在)が800万〜1000万円になる可能性がある。就業者の年収でなく、仕入れ価格の引き上げにつながれば経済は活性化する。社会福祉や環境/格差問題の解消に資金を供出してもいい。デジタル企業が社会的にリスペクトされ、時代の牽引役と認知されるには、もう一つ二つの脱皮が必要に思われる。